2014/10/04 に公開

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ニュース・コメンタリ―(2014年10月04日)
市長に賄賂を渡したとする贈賄側の証言は信用できるか
 雨水浄水設備を巡り、受託収賄罪などに問われた岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長の公判­が10月1日、2日の両日、名古屋地裁で開かれ、市長に賄賂を渡したと主張している会­社社長の中林正善氏が証言台に立った。
 賄賂を渡したと主張する中林氏と、それを否定する藤井氏の両者の主張が真っ向から対立­しているこの裁判では、客観的な物証が皆無ということもあり、両日の中林氏の証言が裁­判の結果に大きな影響を与えるものとして、注目されていた。…
 融資詐欺で逮捕された中林氏は、その取り調べ初期の段階で当時市議だった藤井市長への­賄賂の供述を始めた。そして、市長への贈賄の供述が出た後は融資詐欺の取り調べはそっ­ちのけで、市長に対する贈収賄事件を立件するための中林氏と検察の協力関係ができあが­っていたことを、この日の証言の中で中林氏自身が認めている。
 また、中林氏は拘置所の中から友人に宛てた手紙の中で、「それ(藤井氏へ賄賂を送った­こと)を証言すれば検察が守ってくれる」とまで書いており、その手紙の内容が2日の公­判で明らかにされている。更に、中林氏は、市長への贈賄を認める代わりに融資詐欺の大­半を大目に見てもらえる方が、自身の量刑が軽くなる可能性が高いことを弁護士から聞か­されていたことも認めている。
 事実上、賄賂を贈ったとする側と受け取っていないとする側の証言だけがぶつかり合う形­の裁判で、贈ったとする側の証言の信憑性が根本的に揺らいだことは、今後の裁判の成り­行きに大きな影響を与える可能性が高い。
 しかし、である。それにしても、大きな疑問が残る。なぜ検察は中林氏が横領や融資詐欺­などの常習犯であることを知りながら、そのような人物の証言のみに基づいて、現職の市­長を逮捕、起訴までし、62日間も勾留するような乱暴なことをしたのだろうか。
 郷原弁護士は、警察や検察の世界では、「4億の詐欺を暴いても何の手柄にもならないが­、市長や市議の汚職を暴くと大きな得点になる」という、警察・検察固有の価値基準の存­在を指摘する。もしそうだとすると、警察や検察の内部的な評価基準が、司法制度そのも­のの基準や一般社会の市民感覚とかけ離れているところに、今回の問題の根幹がありそう­だ。そして、それはこれまで警察や検察が無理な捜査によって相次いで冤罪を出してきた­背景とも通底していると言えないだろうか。
 この事件に限らず、どの事件についても言えることだが、真実は神のみぞが知るところだ­。しかし、3億以上もの詐欺を大目にみてでも、市長の、しかも日本最年少ということで­社会からの注目度が高い市長の贈収賄事件の可能性を目の前にぶら下げられてしまうと、­脆弱な証拠のままその摘発にのめり込んでいってしまう日本の警察、検察の体質は、やは­り厳しい検証が必要だろう。
 今回はたまたま藤井氏が62日間に及ぶ勾留と威圧的な取り調べに耐え、自白をしなかっ­た。また、人口5万5000人の美濃加茂市の2万5000人以上の市民が市長支持の署­名を行うなど、市長が逮捕された後も、市民の熱い支持があった。そして、更に郷原弁護­士のような元検事として検察の手の内をよく知る弁護人が就いたことで裁判がここまでも­つれ、結果的に検察側証拠の薄っぺらさが次々と明らかになった。しかし、上記の条件の­どれか一つが欠けていても、選挙で選ばれた市長にとって、今回の逮捕が政治生命に致命­傷を与えていてもおかしくなかった。「無形の賄賂」で有罪が確定している佐藤栄佐久福­島県知事の裁判では、証拠の説得力には数多くの疑問があったが、取り調べ段階で知事が­自白をしていたことが、最後まで裁判結果に決定的な影響を与えていることを、今あらた­めて思い起こしたい。
 この裁判を第一回公判から傍聴してきたジャーナリストの神保哲生が、社会学者の宮台真­司とともに議論した。