2017/12/16 に公開
http://www.videonews.com/
ニュース・コメンタリー (2017年12月16日)
司会:神保哲生 宮台真司  
日本最年少の首長として注目されていた岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長が受託収賄などの罪に問われていた事件で、最高裁が市長側の上告を棄却したのを受けて、藤井氏は12月14日付で辞職することを表明した。  
藤井氏の弁護団は来週にも最高裁に異議申し立てを行う意向を示しているが、これが認められなければ名古屋高裁が藤井氏に下した懲役1年6カ月、執行猶予3年の有罪判決が確定し、藤井氏は自動的に失職することになる。  
藤井氏は今も一貫して無実を訴えているが、市政を停滞させたり混乱させないため、異議申し立ての結果を待たずに辞職を選択したと語っている。  
ビデオニュースではこの事件を、市長の逮捕直後から継続的に取材し、その進捗状況を詳しく報じてきた。
他のあらゆる刑事事件についても言えることだが、真実は神のみぞ知るところではあるとしても、裁判はあくまで検察が提示した証拠に基づいて審理され判決が下される。
一審からのこの裁判の経過をみると、この裁判で提出された検察側の証拠で一自治体の首長が逮捕され有罪判決を受けたことには、内容的にも手続き的にも多くの疑問が残る。  
この裁判は一審で無罪判決を受けた被告が、新たな証拠の提示もないまま、単に高裁が一審で提出された検察側の証拠の解釈を変更したことによって逆転有罪判決を受け、最高裁が何の理由説明もないまま上告を棄却したことで事実上刑が確定することになる、司法手続き上も疑問の多い裁判だった。
一審では藤井氏は自らの潔白を訴える機会を得たが、二審では裁判所は藤井氏の反論すら聞いていない。  

そもそも藤井氏に30万円を渡したと証言している業者は、自身が金融機関相手の巨額詐欺で逮捕され、その取り調べを受けている最中に、半ば検察と取引をするような形で、藤井氏への贈賄を証言していた。
無罪を言い渡した第一審は、贈賄側と検察の間に虚偽の口裏合わせがあった可能性が排除できないことも、無罪理由の一つとして挙げていた。
逆転有罪となった二審で、一審が認定した虚偽の口裏合わせがあったことの新たな証拠は、提出されていない。  
実際、藤井氏への贈賄を証言した業者は、藤井氏が逮捕された時点で既に、金融機関を相手に3億7800万円分の融資詐欺を働いたことを自白していた。
にもかかわらず、その段階では融資詐欺については2100万円分しか起訴されていなかった。
その後、弁護側の告発でも4000万円の詐欺が追加されたが、それでも自白した詐欺のほんの一部しか罪に問われていないのだ。  
しかも、金銭の授受については、その業者は当初、藤井氏とレストランで2人きりで会っている際にカネを渡したと証言していたが、後に、その面会の場に実は第三者が立ち会っていたことが領収書の表記から明らかになり、しかも、その立会人は、自分は面会中に一度も席を離れていないが、金銭の受け渡しは絶対に見ていないと繰り返し断言していた。  
ところが検察はその立会人に「自分は一度も席を離れていないし、金銭の受け渡しも見ていないので、もし金銭の受け渡しがあったというのなら、自分が席を離れていた時しかあり得ない」といった趣旨の証言調書に無理やり署名をさせていた。
そして、高裁判決は立ち合い人が離席中にカネを渡した可能性が高いことを認定し、金銭の授受があったことの根拠としていた。  
ことほどさように多くの不可解な点のある裁判だったが、より重大なのはこの裁判の政治への影響だ。

東日本大震災の際にボランティアなどを行い、震災の恐ろしさを肌身で感じていた藤井氏は市議会議員に当選した後、「震災時のために太陽光発電が可能な浄水器を公立中学校のプールに設置する」という業者からの提案に強い魅力を感じ、その実現のために積極的に動いていた。
ところが、後にその業者が金融詐欺で逮捕された時、「藤井氏にカネを渡した」と言い始めた瞬間に、藤井氏が浄水器設置の実現のために尽力したことが、逆に、業者からカネを受け取った藤井氏が請託を受けて動いた証拠として認定されてしまったのだ。  
これでは政治家が市民から受けた提案を実現するために積極的に動くことが、後々リスクになる先例となってしまいかねず、政治への影響は甚大だ。
提案者が突然、「カネを渡した」と言い出せば、それだけで有罪になってしまう恐れがあるからだ。
しかも、それは意図的に政治家をはめることも容易となることをも意味している。  
今回はたまたま金銭の授受の場に立ち合い人が存在し、その立会人が金銭の授受などなかったと証言したために、検察はあり得ないような無理な主張を押し通さなければならなくなったが、もし2人きりで会っている場でカネを渡したと証言され、しかもその人物から受けた提案がいい提案だと考え、それを実現するために実際に働きかけなどやっていようものなら、実際はカネなど受け取っていなくても、まちがいなくアウトになってしまう。  
藤井氏は2013年5月に市長に就任して1年ほどでこの収賄事件に巻き込まれ、その後、3年間、被告の立場で市政の陣頭指揮を執り続けることを強いられた。
しかし、その間、美濃加茂市民は藤井氏の潔白を信じ、裁判を抱えた藤井氏を支持し続けた。
被告の身のままで藤井氏は2度も再選を果たしていた。  
12月13日の夜に急遽行われた辞任会見の場に集まった藤井氏の支持者たちからは、3年間の執行猶予が解けたあと、藤井氏にはまた市長に復帰してほしいという声が多く聞かれた。
また、「これは冤罪だ!」といった悔しがる人も多かった。  
会見後、ビデオニュースの取材に応じた藤井氏は、「まだ(上告棄却の)通知を受けたばかりなので」と、3年後の復帰を宣言することは躊躇ったが、今回の経験を肥やしに、今後も美濃加茂市政や政治には関わっていきたいとの抱負を語った。  
この事件と最高裁の決定をどう評価すべきかについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)